Twitterで見たアンケートの円グラフに疑問

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2020/5月にTwitter上でハッシュタグ「#九月入学本当に今ですか」が話題になりました。SNS上でも、学校を「九月の入学」に移行することについての様々な意見が出ていたようです。

賛成・反対派それぞれに意見があり、真剣に今後のことを考えるために議論するというのは、とてもいいことだと思っています。

しかし、そういった議論の中で、数値データをわかりやすく見せるために使われる「円グラフ」について、その使われ方で疑問を持つものがあったので個人的な見解を書かせてもらいます。

※あくまでグラフの使われ方に関する記事です。「九月の入学」に関する記事ではありません。

円グラフから受ける印象

はじめに上のツイッターに投稿されたグラフを見てください。消えた場合用に下にも同じ数値で作った参考画像をおいておきます。

グラフ4

見た瞬間の印象としては、反対をしている人が多くいるように見えます。しかし、文字で書き出すと以下のようになります。

>賛成:18%
>反対・慎重:80%
>回答保留:2%

反対・慎重:80%
こちらの表記。なぜ慎重と反対の意見を同じものとして扱っているのでしょうか。職業上、多くの数値データ・グラフを使ってきただけに、こういった表示はモヤモヤするものがあります。

また、辞書で「慎重」を調べると「注意深く、落ち着いて、軽々しく行わない」という意味が出てきます。

これははたして”反対している”と同一グラフに含めていいものなのでしょうか。「軽々しく行わない」という意味だけをピックアップして、行わないと言っているから反対のようなものだ、としてしまうのは少し乱暴に感じます。

そもそも、回答が複数の場合は明確にグラフを分けるべきだと考えます。(少数のデータをその他にまとめる場合は除く)なぜなら、データというのは分析のために用いるものであって、正確に情報を伝え、判断はそれを見たものの手に任せられるべきだと考えるからです。

正確性を失ったデータ・グラフは、もはやイメージを操作してしまう危険なものになりかねません。また、今回こちらのグラフの元データとなった文章は以下のものかと思います。

調査は、全国市長会の815市区長を対象に21、22日に実施。約7割の576市区長が回答し、慎重62・5%、反対17・9%、賛成18・1%、保留1・6%だった。立谷氏は、「いまは学校の新型コロナウイルス対策に全力を挙げるべきだ」との意見が多かったと述べた。

引用:msnニュース

こちらの数値データを改めてグラフにすると、以下のようになります。

グラフ1

※ちなみにかっこ内の「%の数値」がずれているのは、文章内の全ての数値を加算すると100.1になるので、その誤差分です。

グラフを書き直すとまた違った印象を受けるのではないでしょうか。このグラフの第一印象はおそらく「賛成と反対は同数程度で大半を慎重派が占める」というものになったと思います。

イメージ操作の罠

グラフ1

ここからはさらにグラフのイメージについての話をします。

少し上のグラフについて質問です。あなたは上のグラフを「正確なグラフになった」と考えるでしょうか。今回の正確さの定義は、あくまで「アンケートの結果を誤解なく伝えること」とします。

実は、上のグラフにもイメージ操作の可能性が残っており、正確なグラフになりえない場合があるのです。

今回はグラフの配色を、賛成が青、反対が赤、慎重がグレー(灰色)としてグラフを作りました。しかし、グレーのグラフから受ける印象は「どちらとも決めかねている浮動票」といったものではないでしょうか。

アンケートの「慎重」という回答が、そういった意図をもったものだとしたのなら、このグラフはある程度正確な情報伝達ができていると言えます。しかし、そうでなかった場合、例えば「慎重」という回答が「今は積極的に対応を行うべきではない」というニュアンスを含んでいた場合、このグラフは誤ったイメージを伝えてしまっている可能性があるのです。

もし「慎重」に「反対」に近い意図があるなら、とるべき配色の例は以下のようなイメージになります。

グラフ2

逆に「慎重」が「軽率には決めないが可能な限り行うようにしたい」というニュアンスを含むなら以下のような配色でしょうか。

グラフ3

さらに見やすさを整えるために「慎重」と「反対」の位置を逆にし青色のものを近くに配置するかもしれませんが、おおよそのイメージは伝わったかと思います。

円グラフは便利です。しかしこのように、数値を意図的に合計してグラフを作らなくても、配色一つで印象が変わってしまう危険を含むものでもあるのです。

※配色の問題は色がイメージに大きく関わるグラフ(帯グラフなど)なら同様に発生します。その他のグラフでも、見る場合は注意が必要です。

正確な円グラフとは

ここで、イメージ操作についても踏まえて「正確な円グラフ」について考えたいと思います。

円グラフにおいて、数値データが間違っていないというのはもちろん重要です。しかし、それと同じくらい重要だと考える項目があります。それは、用いたデータが元のデータの意味のまま受け手に伝わることです。それがなくては円グラフはただの相手を騙すための道具になってしまいます。

誤解なくデータの意味が伝わって初めて、円グラフは「正確な円グラフ」と言えるのではないでしょうか。

もちろんデータのニュアンスを正しく伝えるために、ある程度工夫した円グラフを作ることは伝える努力としてとても良いことだと思います。しかし、行き過ぎた工夫は誤解に繋がる可能性もあるのです。

改めて今回のグラフを見てみます。

グラフ4

「慎重」の意見がいったいどういった意味を持った回答なのかはわかりません。しかし「反対」と「慎重」を合わせたグラフを出すというのは、少し工夫の範囲を超えているように感じます。

あくまで別項目として回答が行われたものなのならば、仮に近い意見だったとしても、少数でないなら分けて書くべきです。

だからこそ、このグラフは「正確な円グラフ」の範囲を外れてしまっているように見えるのです。(※個人の見解です)

最後に

グラフ4

ここまでこのグラフについて色々書いてきましたが、もし仮にこのグラフが別の意図を持って作られたものだとしたら、すごいものではないかと考えてもいるのです。

人間は全ての情報を鵜呑みにするほど、何も考えていない生き物ではありません。実際「反対」と「慎重」が合わさるこのグラフを見て、その表示はおかしい、という思いから本来の数値を調べたりする人は多くいます。

ではもし仮にこのグラフが「この件に関して興味を持ってもらい、調べることのきっかけ」になることを意図して作られたものなら? 実際記事を書いている私が言うのも変ですが、上手いことのせられたなと笑顔になれます。

ですが、このグラフはおそらくそうではないでしょう。一瞬見て、完全な反対が8割という認識をしてしまった人も多いです。しかもTwitter上であるだけに、リツイートの機能によりその情報が広まる可能性も高くなります。

つまり、興味を持って調べてもらうという裏の意図がもし仮にあったとしても、それは多くの誤解を生み出すというマイナスの効果により、どのみち良いグラフとは言えないものになっているのです。

データを多く扱う私のような人間としては、誤解のある情報が広がるのは悲しいことでもあります。できれば、正しい認識が元の意味を持ったまま広がってくれるようになることを願います。